人生最高の本、映画

 うまくいかない時期 わらをもすがる思いで手にした本

2015.12.23 レビュー

深川紅緒

深川紅緒(Editor)

松川ケイスケ(LACCO TOWER)/アーティスト

『罪と罰』
ドストエフスキー 著/新潮社

古本屋で手にして、3ヵ月以上かけて読み続けた
 『罪と罰』を初めて読んだのは25歳の頃です。バンドでも作詞でも、いろいろ行き詰まっている時でした。だから音楽以外で自分に何かを取り入れてみたいと思って。そんな理由で本を読み始めたんです。
 ドストエフスキーの『罪と罰』って、誰しも1度は耳にしたことがありますよね。あれって何なんだろう、って気になっていました。自分の中で読書のリズムができてきた時、「あ、読んでみよう」って手に取ったんです。古本屋で、1万円以上する分厚いハードカバーを。
 1ヵ月あれば読めると思ってたけど、3ヵ月以上かかりましたね。本を開けてみたら上段と下段で分かれていて、しかも段落もない(笑)。必死で読みましたね。
 主人公のラスコーリニコフは、明晰な頭脳を持つ貧乏な学生で、学費も払えないほど困窮している。金貸しの意地悪なおばあさんを見て、殺害計画をもくろむんですね。哲学的な観点からよく引用されたりする物語なんですが、小さな犯罪で多くの人が救えるならそれは犯罪ではないんじゃないか、という意味を持った物語です。

貧しさゆえ誰かを恨みたくなる主人公が、自分と重なった
 金貸しのおばあさんはいろんな人に意地悪をしているんです。ラスコーリニコフはお金が欲しいし、この人がいなくなれば助かる人がたくさんいるんじゃないかってどんどん自分を正当化していく。次は罪の意識に苛まれます。善行を重ねて、最後には自首します。
 主人公の貧しい状況とか、貧しさゆえ誰かを恨んでしまう環境とか、当時の自分とダブるところがあって。バンドもパッとしなかったし、メンバーが抜けたり、いろんなことが重なって本当に悲惨な時期だったんです。何でこんなにうまくいかないんだろうなって思ってたし。今の音楽シーンが悪いとか、わかってくれる人がいないとか、誰かのせいにしたくて。そんな思いが、読み始めは重なりました。主人公も、家賃も払えない状況で周りを見た時にちょうどそういうおばあさんがいて、あいつが全部悪いんだって思ってしまう。

あの頃のようには刺さらなくても、影響は受け続けている
 ラスコーリニコフは選民思想というか、ナポレオンの影響を受けているんですよ。自分は選ばれた人間で、そうじゃない人はたくさんいる。選ばれた人間はそうじゃない人たちのために何をしてもいい、といったことを考えているんですよ。その身勝手さに僕は衝撃を受けて。どんな状況でも、絶対にこうならないでおこうって思いましたね。僕も子どもの頃から器用貧乏だったから、挫折を信じたくなかった。自分の鼻っ柱を折られたところもありました。
 物語を書くように歌詞を書く方向性は、ちょうどこの本を読んだ頃からですね。だからすごく影響を受けてる。これを読めば何か変わるかもって、わらをも掴む気持ちだったし。今、実際に歌詞を書くときはタイトルを決めて歌詞を書き出すというスタイルなんですけど、本当に一冊の本を書く気持ちで書いています。
 実は、30歳の誕生日にもう1回『罪と罰』を読んでみました。今読むとどう感じるんだろうって。あの頃よりは恵まれた環境になったし、バンドもうまくいき始めた頃だったので、刺さるというよりは、懐かしむ感じでしたね。でも、きっかけをくれて、今でも自分の音楽・歌詞の制作過程に生きてます。

PROFILE

松川ケイスケ(LACCO TOWER)/アーティスト
1981年生まれ。東京、群馬を中心に活動し、自らを「狂想演奏家」と名乗る5人組ロックバンド、LACCO TOWERのボーカリスト。2015年6月17日にメジャー1stアルバム『非幸福論』発売。2016年2月メジャー1stシングル発売決定。同月に渋谷TSUTAYA O-EASTでワンマンライブが開催される。

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