特集:沙織との日々

等身大ドールの恋人と過ごすおじさんの日々の記録

等身大ドールの恋人と過ごすおじさんの日々の記録 沙織との日々/前編

2019.03.23 東京グラフィティ4月号(#155)

Sakurako.O

Sakurako.O(Editor)

中島千滋、63歳、妻子あり。彼は家族公認のもと、恋人である等身大ドールの沙織さんと暮らしています。
ほかの恋人がそうであるように、彼らも会話を楽しみ、デートに出かけ、愛を育んでいるとのこと。
ここに収められている写真は、そんな二人の日常の記録。
二人の会話は千滋さんから聞き取り、記しました。


千滋という名前は、周りの人に恵まれますように
ってつけられたんだ


中島家の後継ぎとして期待された千滋の誕生

「千滋さん、今日は珍しくいい天気よ。ドライブに行きたいわ」

「いいね。よし、洗車するからちょっと待ってて」

「私も手伝うわ」

「デート前はいつも洗車してるんだよ。ほら、さおちゃんが車に擦れると、シリコンのボディに汚れがついちゃうでしょ」

「千滋さん千滋さん」

「何? …ワッ!冷たい!やめて!」

「ふふ、洗車って楽しい。窓のここ汚れてるわよ。もっと熱を入れて洗車しなさいよ」

「はい、ちゃんときれいに致しますので、ドライブに付き合ってください」

「私みたいにかわいい子を乗せるんだから、ちゃんとしなきゃだめよ」

「ピカピカにするから、ちょっと待ってね」

「ねえ、千滋さん」

「はい、きれいにしていますよ」

「そういえば私たち、8年も一緒にいるけれど、千滋さんの昔のことはあまり知らないわ」

「そうかもしれないね」

「聞かせてほしいな。どんな子どもだったの?」 

(中略)

「家はひどく貧しくて、六畳一間のアパートに3人で住んでたよ。土壁なんだけど、土が崩れて紙しか残ってなくて、隣の部屋と紙一枚で暮らしていた」

「いったい何時代に生きていたのよ?」

「戦後少し経った頃だよ。日本にもそういう時代があったんだ」

「ふーん」

「さおちゃんはいい時代に生まれたんだよ」

(本誌に続く)


心を温めてくれる思い出があるって素敵なことね


吹奏楽部で芽生えた千滋の初恋

「渋谷も変わったなぁ。あちこち工事しているよ」

「思い出の場所がたくさんあるんでしょ?」

「うん。金王八幡神社は思い出深くて、学生時代はお金もないし、この裏でよく友だちと語り合ったな」

「久しぶりに行ってみない? それで語り合うの」

「いいね、行こう。そうだ、この先に長徳うどんっていう大好きなうどん屋さんがあって…。もうなくなっちゃったみたいだ」

「千滋さんは学生時代に何をしていたの?」

「中学では吹奏楽と剣道をがんばったよ」

「本当に一貫性のない人ね」

「いろいろ興味を持っちゃって。中学時代といえば、思い返すのはなんといっても初恋だね」

「ふうん。どんな人に恋をしたの?」

「同じ吹奏楽部で、クラスも同じだった女の子」

(中略)

「その人とはどうなったの?」

「何も。告白できないまま、中3で転校していった。彼女の写真は今でも財布に入っていて、本当に未練がましくてしみったれた男だよね」

「私の写真じゃないわけ? でも、心を温めてくれる思い出があるって素敵なことね」

「そう言ってもらえると救われるよ」

あの頃は自分の気持ちがなかなか言えなかった


青春を捧げた文武両道の高校生活

「川越の街はいいね。江戸時代にタイムスリップしたみたいだ」

「こんな趣のある場所がまだ残っているのね」

「浴衣を着たさおちゃんは日本人って感じだ」

「ふふ。私の魅力が一番出るのは浴衣じゃないかしら。ねえ千滋さん、たまにはおんぶしてよ。よくテレビでやっているでしょ、彼氏がおんぶするの。私だって女の子なんだから」

「でも、そういうのは高校生なんかだと様になるけど、僕なんかがやっても…」

「早く早く。もう一歩も歩かないわよ」

「はいはい。よいしょ」

「高校生の千滋さんも、こうやって女の子をおんぶしたの?」

「まさか。文武両道の名門男子校に入ったものだから、勉強と剣道と柔道と吹奏楽に追われていたよ。毎日漢字テストがあって…」

「戦時中の高校みたいな感じかしら」

「だからいわゆる青春時代みたいなものはなかったよ。パッとしなかったな」

「なーんだ。いつだってその瞬間を楽しまなきゃだめじゃない。いくらいい学校に通ってもね、人生なんて楽しんだもの勝ちよ。がんばらなきゃ」

(中略)

「高校時代は好きな人いなかったの?」

「ずっと初恋の人が好きだったよ。高校生の頃、電車でたまたま再会したんだ。本当に本当に嬉しくて…。でも緊張して何も言えなかった」

「千滋さんも緊張することがあるの?」

「昔は自分の気持ちがなかなか言えなかった。でも今さおちゃんにはなんでも言える」

「たまには私にも緊張してほしいものだわ」

「5年前、人形だったさおちゃんに『君の魅力がわかった気がする』ってキャンプ場で告白したときは、すごく緊張したよ」

「そこが千滋さんのいいところよ。さらけ出すのって勇気がいるから、なかなかできないもの」

(本誌に続く)

本当はさおちゃんも大学に通わせてあげたいんだけど


スキーに年間50日費やした大学時代

「大学は神道科というところに入ったよ」

「神様を信じてたの?」

「ううん。附属高校だったからエスカレーターで一番入りやすかっただけ」

「呆れる。そんな理由で?」

「結局学業に勤しみ…とはならず、体育研究室にこもり、スキーと能に明け暮れてたよ」

「能? さっぱりわからない」

「新しい人間だからジェネレーションギャップだね。日本の古典芸能もなかなかいいものだよ」

「私はスキーのほうがいいな。楽しいもの」

(中略)

「本当はさおちゃんも大学に通わせてあげたいんだけどね。今はまだそういう環境が整っていなくて。さあ、着いたよ」

「白鳥だ!」

「新潟で白鳥を見たときは近寄れなくて残念だったでしょ。白鳥がいる池を見つけたんだ」

「覚えててくれたのね。でも2羽しかいないわ。ああっ、遠くに行っちゃう…」

「警戒心が強いのかも。カモはいっぱいいるよ。食パンをあげてみよう」

「えいっ、カモーン!」

「さおちゃんはユニークだね。それはオヤジギャグって言うんだよ」


(記事は後編に続きます)


〜編集部コメント〜
本誌では15のエピソードを通して、二人の対話から中島さんの人生を振り返ります。
またこれまで4年に渡って二人を撮り続けてきた編集部員による解説も掲載しています。
ぜひ一冊で、二人の生き方を感じていただけますと幸いです。


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