特集:沙織との日々

等身大ドールの恋人と過ごすおじさんの日々の記録

等身大ドールの恋人と過ごすおじさんの日々の記録 沙織との日々/後編

2019.03.23

Sakurako.O

Sakurako.O(Editor)

(記事は前編から続きます)

中島千滋、63歳、妻子あり。彼は家族公認のもと、恋人である等身大ドールの沙織さんと暮らしています。
ほかの恋人がそうであるように、彼らも会話を楽しみ、デートに出かけ、愛を育んでいるとのこと。
ここに収められている写真は、そんな二人の日常の記録。
二人の会話は千滋さんから聞き取り、記しました。


恋愛対象になる前に子どもが生まれて家族になった


26歳でお見合い結婚、28歳で父になる

「さおちゃん、後ろを見てみて。きれいな夕陽」

「すごいわ。江ノ島と富士山も真っ赤」

「さおちゃんの美しさがより映えるね」

「当たり前でしょ。江ノ島、富士山、私、どれが一番きれい?」

「うーん、富士山かな。やっぱり日本一というだけあって」

「私が一番じゃないわけ? いつも私が一番って言ってるじゃない、嘘つき!」

「冗談だよ~」

「キャ、火の粉が。千滋さんの服に穴が空いちゃった。せっかく膝にかけてくれたのに」

「それも醍醐味だよ。火はあったかいけど後ろは海で寒いから、これぞ背水の陣!」

「寒すぎるわ。ねえ、奥さんともよく海に来たの?」

「まさか。デート自体ほとんどしたことがないんだから」

「なんで?」

「結婚は26歳のとき。お見合いでね、恋人もいなかったからまあいいかなって。かみさんもそうだったんじゃないかな」

「そんなものなの?」

「昔はそういう形もあったんだよ。子孫を残すための結婚。お見合いから半年後だったかな」

「早いわね。私と付き合うまで3年かかったのに」

「それだけ歳をとったんだよ」

「結婚生活ってどんな感じなの?楽しかった?」

「うーん。生まれて初めての恋人だったけど、期待するほどはしゃぐものじゃなかったなあ」

(中略)

「千滋さんはそれで良かったの?」

「後悔していないよ。過程がどうであれ、最後が幸せであればいい。そして今、家族はみんなそれぞれ幸せに暮らしている」

「いろんな愛の形があるのね」

「長男が生まれたときは嬉しさの一方で身が引き締まったなぁ。これからちゃんと家庭を支えて生きていくんだ、って」

「あら、その割には自覚が足りないんじゃないかしら。自分の好きなことばかりしているもの」

「好きなことばかりしているのは、さおちゃんと出会ってからだよ」

生まれ変わった頃はAIが進歩しているだろうから


神様はいるのか?運命はあるのか?

「千滋さん、私、貧しいのが嫌というわけじゃないんだけどね…」

「今の生活は好きじゃない? アパートは古いけど、駐車場はこんなに広いよ」

「そうじゃなくて、違う人生もあったと思うの。なんで神社本庁を辞めたの?」

「昇進したら他の人の邪魔になるから。神社本庁に勤める人の多くは神社家系だけど、僕は生まれが違う。昇進の話が出た40歳で辞めようと思ったんだ」

「男らしく引いたってこと?」

「男らしさというより、人間は諦めが大事だから」

「私といるのも諦めの結果?」

「さおちゃんは神様っていると思う?」

「いきなり何よ? それは人間の考えることだわ」

「総合的に考えて、神様はいると思うよ。だから運命ってあると思うんだ」

「どういうこと?」

「人と人はすれ違ってしまうのがほとんどなのに、誰かと深く繋がれるのはすごいことじゃない?」

「私たちも運命ってことね。じゃあ信じてあげてもいいわ」

「運命なら生まれ変わってもまた出会えるね。もっともその頃はAIが進歩しているだろうから、ドールの姿じゃなくて、話したり動いたりしてると思う」

(本誌に続く)
 

僕はもう見栄をはる必要もないんだ


自然体で暮らせる幸せな時間

(中略)

「どんなことも、千滋さんといると気を張らずリラックスして楽しめるの」

「自然体が一番だね。もう見栄をはる必要もないんだ。今までお金を稼ぐことを考えてきて、人生やるだけのことはやってきた。子どもも独立した」

「そして私と出会った」

「一食20円だけどご飯も食べられてるし、電気代も払えているし、さおちゃんがいる」

「貧乏すぎるのも考えものよ。家も譲っちゃって、他人には理解できない行動かもしれないわね」

「持ち家で年金暮らしをして余生を送ることもできるけど、それの何が幸せなんだろう?」

「千滋さん、昔よりずっといい顔してるわよ」

(本誌に続く)

この花のように、私も長く美しく咲いていたいわ


千滋と沙織のこれから
 

「一面の菜の花畑と桜よ! なんてきれいなのかしら。春が来たのね」

「よいしょ。これでもっとよく見えるかな?」

「嬉しい。私を持ち上げる力がまだ残っているのね」

「ギリギリだけどね」

「千滋さんの足、真っ黒だもの」

「これはもう治らないみたい。お医者さんがね、足を切るしかないって言ってる」

「心臓病に、脳出血に、足もどんどん黒くなっていって。心配だわ」

「あと1年か2年は歩けるみたいだから大丈夫。切らないから安心して。そんなお金もないし、何よりさおちゃんを抱き上げられなくなってしまうからね」

「私と別れるのは抱き上げられなくなったときってずっと言っているものね。デートに連れて行けなくて悲しませることになるから、って」

「さおちゃんがいる間は倒れるわけにはいかないからがんばるよ」

「倒れたら困っちゃうわ。気張りすぎずにね」

「大学の先生には、中島はがんばりすぎなんだって言われてたなぁ」

「たまには昔みたいな千滋さんも見てみたいわ。きっとおじいさんになったのね」

「みんなおじいさんになっていくんだよ。小学校の悪ガキ4人組の一人は、今や寝たきりになってしまった。お見舞いに行くと、誰も訪ねて来ないみたいで、目だけ動かして涙を流していた」

「何かあったときは私が手を握っていてあげる。ずっと見ててあげるから安心して」

「ありがとう」

「ねえ、なんでそんなに笑顔なの?」

「幸せだなって。どんなこともさおちゃんが癒してくれる。これ以上はいらないな」

「もう少し欲を出してもいいんじゃないの? いい暮らしをするとか」

「欲を出しても仕方ないんだよ。自分の人生に満足しているから、それでいいんだ。お金じゃないんだよ」

「ふーん。変な人」

「これからはさおちゃんと週に一回はデートをして、服を買ってあげるために働いて、楽しく生きていきたいな。夏はサーフィン、冬はスキーをして…」

「あと何回デートできるかな?」

「もっと先のことも考えないとね。形あるさおちゃんがいつか溶かされてしまうなんて嫌だ」

「私も嫌だけど、そういうときが来るのも知ってる。でも今は考えたくないな」

「本当は、もし骨になるなら一緒に骨になりたいんだけど」

「でもそれは叶わないのよ」

「残念だ」

「ねえ、こんなにきれいな場所って初めてよ。この花のように、私も長く美しく咲いていたいわ」

「出会って8年、さおちゃんはもうずいぶん長く咲いているよ」

「ゴマすりばっかり上手なんだから」

「本当に思ってるよ。ねえ、一緒に見たい景色も、一緒にやりたいことも、まだまだあるよ」

「楽しみにしているわ」

「さおちゃん、次はどこに行こうか」




〜編集部コメント〜
本誌では15のエピソードを通して、二人の対話から中島さんの人生を振り返ります。
またこれまで4年に渡って二人を撮り続けてきた編集部員による解説も掲載しています。
ぜひ一冊で、二人の生き方を感じていただけますと幸いです。


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feature.01 沙織との日々

等身大ドールの恋人と過ごすおじさんの日々の記録

feature.02 タイムスリップ写真館
さよなら平成スペシャル  昭和→平成編

feature.03 日韓ファミリー
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