タバコがかっこいい映画

「人間の本音が一番出やすくなる道具」鳥居みゆき/タバコがかっこいい映画 vol.2

2019.06.01 東京グラフィティ5月号(#156)

Sakurako.O

Sakurako.O(Editor)

PROFILE

鳥居みゆき(38)芸人、女優、映像・絵本作家、小説家
テレビ、映画や舞台で多数活躍しているほか、絵本『やねの上の乳歯ちゃん』や小説『余った傘はありません』なども話題を集める。

安部公房の蟻地獄に私がはまっている

『砂の女』
1964年 日本/出演:岡田英次ほか
KADOKAWA
砂丘地帯に昆虫採集にやってきた高校教師。砂の穴の中で暮らす未亡人の家に一夜の宿を借りるが、脱出できなくなっていることに気づき…。

 急に閉鎖された空間に落とされて、反発するんだけど、最後は順応していく。これって、人間みんなそうじゃないですか。 持っていた夢や希望を打ち砕かれるんだけど、それでも受け入れて生きていくみたいな。
 この作品でのタバコは、そんな変化の目印です。例えば最初の喫煙シーン。女の家に落ちてしまった何も知らない主人公が、高揚感を得た瞬間です。それから、事態を飲み込めなくなって恐怖するとき、逆に開き直って、この生活におもしろみを見出したとき。必ずタバコを吸うシーンがあるんです。一つの作品の中で、タバコの持つ意 味合いが変化していくのが秀逸なんですよね。
 ほかにも演出にたくさんの工夫があります。岸田今日子さん演じる砂の女の艶かしさを、シルエットだけで撮っている。直接的なエロスを出さずに表現しているんです。それから突然入ってくる「ババーンッ!」という効果音。不気味さを醸し出す斬新な音の使い方です。
 もともと安部公房さんの作品が大好き。主人公を自分に重ねて考えてしまいます。不意に絶望的な状況に落ちちゃって、もがくんだけど、結局は順応するのが大事なんだよなって。自分の表現にも大きく影響しています。2年に一度の単独ライブは、 まさに「閉ざされた空間での反発と順応」がテーマなんですよ。
 安部公房によって私が作られている、安部公房の蟻地獄に私がはまっているって感じです。もしリメイクするなら、私に女役をやらせてください!!
 
 

何回も観て初めてわかる、監督が散りばめた仕掛け

『博士の異常な愛情』
1963年 イギリス、アメリカ/出演:ピーター・セラーズほか
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
アメリカ軍の司令官が、突如ソ連の核基地の爆撃指令を発した。司令官の狂気を知った副官は止めようとするが、逆に監禁されてしまう。

 世界が終わるときってこんなノリなんだろうなって思います。嘘に翻弄された見栄張り合戦で後戻りできずに、最悪の事態が起きる…。そんな冷戦を思い出させる、キューブリック節たっぷりの作品です。
 一番の見どころは、R作戦の会議シーン。「皆殺し装置」 なんて名前の兵器が出てきちゃったりして、正気を失ったような会議なんです。それなのになぜか「大事な会議してる」 感が出ているのは、その会議室でもくもくと上がる煙のおかげだと思うんですよ。もうコントみたいな内容なのに、タバコの煙だらけの空間にいるだけで、 妙にシリアスな雰囲気になるんですよね。
 ストレンジラブ博士の登場シーンも見ものです。義手の右手でタバコを吸おうとして、気づいて左手に持ち替えて吸って…わざわざ今度は右手で吸って、最後左手で終わる。吸っている紙巻きタバコは線香花火みたいに儚くて。ワンシーンだけでこれほど博士のキャラクターを伝えられるのは、さすがキューブリックです。
 そもそもタバコって、生きていくのに不可欠なわけじゃない。でも人間は本能で「火」を欲するもの。だからこそタバコを吸うと人間の本質が表れやすいんです。作品の中にあえて存在するタバコが大事な役割を果たすのも、そういう理由からだと思います。実際、タバコを吸う席って一番本音が言いやすい。舞台をやっていても、仲良くなれる手段って喫煙所のコミュニケーションですしね。

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