人生最高の本、映画

この本を読んで動かなかったら今の私はいない

2016.02.27 レビュー

東京グラフィティ編集部

東京グラフィティ編集部(Editor)

浜崎容子(アーバンギャルド)/アーティスト
『HELL 私の名前はヘル』
ロリータ ピーユ 著/アシェット婦人画報社

ー本当のものを何一つ持っていない気がしてむなしい主人公

 読んだのは、アーバンギャルドに入る前。雑誌で連載しているのを読んで、すごくおもしろかったの。
冒頭から嫌みたっぷりで、高飛車で、人間の嫌な部分をここぞとばかりに出している主人公の女の子に一気に引き込まれたのを覚えてる。
 この本は、パリの16区に住んでいる子どもたちの話。そこはパリの中でも高級ブティックが立ち並ぶ、物価の高い地区なのね。そこに住めるのは人生の選ばれし者というか、生まれた時点で普通の人とは違う人生を歩まざるをえない子たちなの。財閥の息子とか、社長の御曹司とかね。
 本当は違う名前なんだけど、主人公は自分を「ヘル」って言うの。自分の運命を、地獄だと言って。10代の女の子で、お金はたくさんあって、高級な服を買ったり、毎日パーティーして朝まで遊んだり、何不自由ない生活を送っている。でも、自分は何一つ本当のものを持っていない気がしてむなしくて仕方ない。

ー恵まれているのに何をそんなに葛藤しているの?

 この本を読んだ頃の私は、音楽をやりたいけど、どうしていいかわからない悶々とした時期だった。ライブ活動をしようにも集客がないとか、デビューしたいけどオーディションに通らないとか。アーティストは誰しもそんな時期があると思うけど、私にもあって。だから恵まれてるのに「欲しいものが何もない」というヘルに衝撃を受けたの。私は音楽でこういう活動がしたいとか、才能とか、コミュニケーション能力とか、いろんなものが欲しいと思ってる。なのに、彼女は欲しいものが何もないの。
 私自身、「恵まれてるのに何をそんなに葛藤してるの?」って学生の頃に言われてた。不登校でしんどかった時期で、私は何も持っていないと思ってたから驚いて。だからか、衝撃を受ける一方で、ヘルの絶望感や虚無感に共感もした。
 この話はバッドエンドなの。ヘルは自分と似た考えを持つ男の子と恋をするけど、失うことを恐れて別れてしまって、すれ違いのまま彼は交通事故で亡くなる。でも、彼女は自暴自棄な生活のまま何も変わらないの。結局のところ、苦しみを終わらせる勇気がないんだよね。

ー来年も再来年も、当たり前のようにあるとは思いたくない

 ヘルは他力本願なんだよね。ヒロイックな自分が心地いいんだろうなと思う。私自身も、音楽を自分から発信する努力をしなきゃいけないのに、その努力がすごくつらい時期があって。誰か何とかしてくれないかなと思ってた。そんな時にこの本に出会って、自分はこうはなりたくないし、こうはなっちゃだめだと痛感したの。ずっと若くいられるわけじゃない。人生って有限だから。
 それから積極的に外に出て、ライブに行って、人と出会って。紆余曲折あって、アーバンギャルドに入ったの。振り返っても、あの時アクションを起こしていなかったら今の自分はないと思う。
 今でもたまに読み返すんだけど、こうなりたくないなってやっぱり思う。でもね、たまに重なるんですよ。「明日もある」とどこかで思っているのかもって、ギクッとする。いろんなことを当たり前だと思いたくないの。周りの環境とか、ライブをさせてもらってることとか、CDを出せることとか。そんな今を、来年も再来年も当たり前のようにあると思ってないかなって。戒めのように、この本を心に置いています。

PROFILE

「病的にポップ。痛いほどガーリー。」のキャッチコピーを掲げ、「トラウマ・テクノポップ」を標榜するバンド“アーバンギャルド”のメインボーカリスト。ソロではシャンソン歌手であり、その他CMナレーターやモデル、コラム執筆など幅広い活動を行っている。

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